2009年02月08日

猿渡瞳さん 13歳で亡くなった少女の1419文字

朝日新聞関西版をみていてこんな記事をに目がとまった。
感動したので、紹介します。

「みなさん、本当の幸せって何だと思いますか」

 制服姿の中学2年生の少女が、聴衆に問いかけた。

 「それは『今、生きている』ということなんです」

 04年7月2日、福岡県大牟田市で開かれた小中学生らの弁論大会。少女は続けた。

 「生き続けることが、これほど困難で、これほど偉大かと思い知らされました」

 「家族や友達と当たり前のように、毎日を過ごせるということが、どれほど幸せか」

 2カ月半後の9月16日、少女は亡くなった。小学6年で骨肉腫を患い、全身に転移していた。弁論大会で読んだ作文「命を見つめて」の1419文字が残った。

 猿渡瞳さん。13歳だった。(金子元希)   

     ◇

 福岡市のピアノ講師、福島由美子さん(56)は06年末、瞳さんのメッセージに出会った。長女が通う高校のPTA行事で、2年半前の弁論大会の録音を聞いた。

 胸に響く言葉の数々に励まされた。公務員だった夫(65)のことで悩んでいた。次々に困難なことが降りかかっていた。

 03年、悪性リンパ腫で胃を摘出。がんは治ったが、軽いうつになった。きまじめな夫だったが、06年春の退職後は急に酒量が増えた。焼酎の一升瓶が1日で空いた。酒を探す夫が部屋のドアを開け閉めする音におびえ、福島さんの体重は2週間で6キロ減った。

 退職から2カ月後に病院に連れて行った。アルコール依存症。医師に「廃人になる」と言われた。泣き崩れると、夫は大声で言った。「酒をやめればいいんだろ」。飲まなくなったが、うつは治っていない。苦しいとき、福島さんは瞳さんが死の2日前に残した言葉を思い起こす。

 「骨はがんに侵されているけど、心はがんに侵されていない。心は自由で幸せ」

     ◇

 瞳さんを知ったときから思っていた。彼女のメッセージを、苦しんでいる多くの人たちに伝えたい。音楽とともに届ければ、もっと心に響くのではないか――。

 1カ月後、人づてに連絡をとって母親の直美さん(40)に会えた。「作文の朗読にBGMをつけさせてほしい」。喜んで賛成してくれた。瞳さんが好きだった曲を教えてもらって驚いた。一青(ひとと)窈(よう)の「ハナミズキ」。楽譜を手に入れ、練習していた曲だった。

 07年春から音楽仲間と一緒に、生演奏をBGMにした作文の朗読会を開く。昨年11月には、仲間の吹奏楽団が朗読を盛り込んだ演奏会を催した。直美さんも客席にいた。

 瞳さんの作文は全国コンテストで入賞し、闘病生活はドラマや漫画になった。直美さんは講演に招かれるようになった。そのたび、瞳さんの言葉を無我夢中で伝えてきた。涙を流す余裕はなかった。でも、この日は号泣した。

 「今もこんなに多くの人が瞳の思いを伝えてくれている。何て幸せな母親だろう」

 隣に座る福島さんは、そっと直美さんにハンカチを渡した。自分も泣いていた。夫が「死にたい」と繰り返したとき、瞳さんの言葉を自分なりに言い換えて伝えてきた。「生きているだけでいいの」

 夫は最近、小さな笑みで応えてくれることがある。また瞳さんの言葉を思い出す。

 「命さえあれば、必ず前に進んで行けるんです」

〈猿渡瞳さんの作文「命を見つめて」全文〉

 みなさん、みなさんは本当の幸せって何だと思いますか。

 実は、幸せが私たちの一番身近にあることを病気になったおかげで知ることができました。それは、地位でも、名誉でも、お金でもなく「今、生きている」ということなんです。

 私は、小学6年生の時に骨肉腫という骨のガンが発見され、約1年半に及ぶ闘病生活を送りました。この時、医者に、病気に負ければ命がないと言われ、右足も太ももから切断しなければならないと厳しい宣告を受けました。

 初めは、とてもショックでしたが、必ず勝ってみせると決意し、希望だけを胸に真っ向から病気と闘ってきました。その結果、病気に打ち勝ち、右足も手術はしましたが残すことができたのです。

 しかし、この闘病生活の間に、一緒に病気と闘ってきた15人の大切な仲間が次から次に亡くなっていきました。小さな赤ちゃんから、おじちゃんおばちゃんまで年齢も病気もさまざまです。厳しい治療とあらゆる検査の連続で心も体もボロボロになりながら、私たちは生き続けるために必死に闘ってきました。

 しかし、あまりにも現実は厳しく、みんな一瞬にして亡くなっていかれ、生き続けることがこれほど困難で、これほど偉大なものかということを思い知らされました。

 みんないつの日か、元気になっている自分を思い描きながら、どんなに苦しくても目標に向かって明るく元気にがんばっていました。それなのに生き続けることができなくて、どれほど悔しかったことでしょう。

 私がはっきり感じたのは、病気と闘っている人たちが誰よりも一番輝いていたということです。そして、健康な体で学校に通ったり、家族や友達とあたり前のように毎日を過ごせるということが、どれほど幸せなことかということです。

 たとえ、どんなに困難な壁にぶつかって悩んだり、苦しんだりしたとしても、命さえあれば必ず前に進んで行けるんです。生きたくても生きられなかったたくさんの仲間が命をかけて教えてくれた大切なメッセージを、世界中の人々に伝えていくことが私の使命だと思っています。

 今の世の中、人と人が殺し合う戦争や、平気で人の命を奪う事件、そして、いじめを苦にした自殺など、悲しいニュースを見る度に怒りの気持ちでいっぱいになります。一体どれだけの人がそれらのニュースに対して真剣に向き合っているのでしょうか。

 私の大好きな詩人の言葉の中に「今の社会のほとんどの問題で悪に対して『自分には関係ない』と言う人が多くなっている。自分の身にふりかからない限り見て見ぬふりをする。それが実は、悪を応援することになる。私には関係ないというのは楽かもしれないが、一番人間をダメにさせていく。自分の人間らしさが削られどんどん消えていってしまう。それを自覚しないと悪を平気で許す無気力な人間になってしまう」と書いてありました。

 本当にその通りだと思います。どんなに小さな悪に対しても、決して許してはいけないのです。そこから悪がエスカレートしていくのです。今の現実がそれです。命を軽く考えている人たちに、病気と闘っている人たちの姿を見てもらいたいです。そしてどれだけ命が尊いかということを知ってもらいたいです。

 みなさん、私たち人間は、いつどうなるかなんて誰にも分からないんです。だからこそ、一日一日がとても大切なんです。病気になったおかげで生きていく上で一番大切なことを知ることができました。

 今では心から病気に感謝しています。私は自分の使命を果たすため、亡くなったみんなの分まで精いっぱい生きていきます。みなさんも、今生きていることに感謝して、悔いのない人生を送ってください。

 (原文をもとに一部修正しています)
asahi.com記事引用


タグ :猿渡瞳

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